2022年11月02日

クレムリンのトルコガスハブ計画

 こちらにロシアの黒海経由ガス輸送計画についての論評があるので簡単に紹介。(ウクライナ・メディアなので批判的です、念のため)
・プーチン大統領はエネルギー週間2022において、ロシアはノルドストリームから黒海地域の輸送に切り替え、トルコにガスハブを作る考えを披露した。トルコ側はアゼルバイジャンにも提案しているとしたが、バクーは経済合理性を求めている。ガスハブは製品の所有権をやりとりするポイント、場所であり、先物契約の調印と物理的な取引(ガス現物の輸送、分岐インフラ)、そして金融サービスが発展している必要である。トルコについてみると以下の問題がある。
1.トルコはガス備蓄庫が不十分である。国内市場の20%をカバーするにすぎない。
2.ロシア南部にガス資源がなく、また追加的な輸送容量がない。高硫黄のガス輸送は黒海で規制の対象となっている。
3. EU諸国でのロシアガスの需要の欠如、トルコからオーストリア・ドイツに向かう輸送インフラの欠如
4. EU法の遵守
5.トルコリラの減価。
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以下は省くが、オチとしては、ウクライナの方がハブの可能性がある、戦争で勝てばトルコ・ハブは霧散、ウクライナ軍を支援しよう、という結び。
posted by 藤森信吉 at 09:12| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月02日

ウクライナの電力輸出

 こちらにウクライナの電力輸出問題が論じられているので簡単に紹介。
 7月28日、EUはウクライナ電力輸出量を2.5倍することを許可した。同日から、ウクライナ・EU間の電力システムは250MWに強化された。8月1日時点では、EU内3か国(スロヴァキア、ポーランド、ルーマニア)とモルドヴァがウクライナ電力を輸入している。ハンガリーは以前は輸入国であったが、今は輸入を行っていない。EUは冬季のガス消費を15%減らすことを決定しており、ロシアとのガス戦争と相俟って、EU消費者にとってガス、石炭、電力価格が上昇している。ウクライナの電力輸出で、これら諸国は冬季にむけた準備を整え、電力料金引き上げを抑制することができる。ウクライナはヨーロッパへ電力輸出すればするほど、戦費を稼ぐことができる。
 ウクライナの電力が70-76ユーロ/MWhとすると、EU諸国の電力は例えばポーランドでは295ユーロ、ルーマニア、スロヴァキアは466-542ユーロ、と遥かに高い。8月30日のデータによると、主としてポーランドに90-205ユーロ/MWhで輸出した。ウクライナは商業的な電力輸出を、EU電力システムとの同期後の3月から始めた。最大の輸出者は、アフメトフ氏のDTEK社である。最大650MWh輸出可能であり、国営企業エネルホアトム、ウクルヒドロエネルホも輸出可能である。
 ところで、ウクライナは自国の電力は足りているのだろうか。夏季、ウクライナは電力余剰が観察されている。つまり、国内消費を完全にカバーできている。戦争により、国内電力消費は30-35%下がった、とヤネス・コバチ氏は指摘している。同氏の試算によれば、エネルホフトムの原発だけで、5GWhあり、Statcomシステムを整備できれば、最大2.5GWhまで輸出力を増やせる。仮に2.5GWhまで輸出できれば、年700億フリブナ以上の収入を得ることができる。
 冬季になって、ウクライナ国内で電力危機は起きない。閣僚会議は、ウクライナ国内生産ガスの輸出を禁止し、一方でEUからのガス輸入を継続して、冬季までに190億m3のガス備蓄を積み上げている予定だ。
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ロシア占領下にあるザポリジャ原発が電力網から切り離されるとか、発電所が攻撃されることは想定していないようです。
posted by 藤森信吉 at 15:24| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月11日

ウクライナ「ロシア・ガスの輸送を続ける限り、パイプラインは攻撃されない」

「ウクライナ・ガス輸送システムオペレーター(ОГТСУ)」社は、「ウクライナ領でガス輸送が続けられる限り、ロシアはガス輸送インフラを破壊することはない」と述べた。
 セルヘイ・マコホンОГТСУ社長はテレビ番組において「仮に輸送がなければ、我々はウクライナ消費者に対する輸送力を低下させることになる。我々には自らのガス市場、ガス生産があり、戦時中でもガス輸送力を維持することが重要だ。ウクライナ領経由の輸送は目下、継続されており、製油所や鉄道輸送に対するようなロシアのインフラ攻撃はない」と述べた。
 また、目下、ガスプロムは契約が規定する予約量の40%以下しか利用していない、と指摘した。
 ウクライナのガス輸送インフラをロシア占領者の攻撃から守るため、ОГТСУ社はドイツ経済省やよびドイツ連邦ネットワーク庁に対しノルド1関連の法案の再考を提案している。ノルド1の停止・制限がかけられた場合、ロシアは完全なガス禁輸をするまでは、ウクライナのガス輸送インフラを必要とすることになる。

posted by 藤森信吉 at 12:24| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月08日

ルーマニア、モルドヴァとウクライナにガス供給の用意

 こちらによるとルーマニア首相は、自領土経由でモルドヴァ、ウクライナに天然ガスを供給する用意がある、と述べた。
 ブルガリア・ギリシャ天然ガス相互接続パイプラインの開通式に参列したルーマニア首相は「基本的にこの接続パイプラインは、ブルガリアとルーマニアへのガス供給を確保するものであるが、東方のパートナー国、ウクライナとモルドヴァへのガス供給も確保することができる」と述べた。また首相は、両国のエネルギー相が、中長期的な共同プロジェクトに関するメモランダム調印が準備されていることにも言及した。

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 年30億m3の輸送力とのこと。
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posted by 藤森信吉 at 15:11| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月02日

ガスプロム、ウクライナ領経由の輸送量を激減

こちらによると、6月のガスプロムのウクライナ領パイプライン利用量は12.5億m3であった。
 ウクライナのガスパイプライン管理企業「ウクライナ・ガス輸送システムオペレーター(ОГТСУ )は、ウクライナのガス輸送システム経由の輸送量は1991年以来、過去最低の12.5億m3であったことを明らかにした。2022年5月比でも37%減、前年同期比で半減となっており、ヨーロッパにおけるガス価格を操作するロシアのガス脅迫は明らかである、としている。6月の輸送量は契約による予約枠(32.9億m3)の38%にすぎない。
 ノルド1輸送量の制限も合わさって、ロシアはEUガス市場の価格を高騰させている。
「ウクライナ・ガス輸送システムオペレーター(ОГТСУ )は、ソフラノフカ・ガス分岐基地(ГИС)経由のガス輸送については、一時的占領地域にあるノヴォプスコフ・加圧基地の制御ができず、また、占領者の契約外抜き取りがあるため、不可抗力であることを宣言している。
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 2019年12月に結ばれた輸送契約で最低輸送量(ship or pay)規定があるはずだが、抵触しているのではないか。ロシア的には違約金払ってでも得られるものがあるのか、あるいは違約金を踏み倒すのか。
posted by 藤森信吉 at 13:03| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月29日

5/1以降、モルドヴァのガス事情はどうなるのか

 こちらに、5/1以降の予測記事が掲載されているので紹介。
 5/1以降、ガスプロムによるガス供給が脅威にされさており、政府は様々なシナリオを検討している。2011年10月のガスプロム・モルドヴァガス社契約で、ガス債務を外部監査で精査し、5/1までに債務返還契約を結ぶ、という条項があったが、2月24日の開戦により応札する法律事務所を見つけることは不可能となった。一方で、モルドヴァはヨーロッパ諸国の中でも、最悪の22.2%(2022年3月、年換算)を記録しており、ガス消費価格は131%アップであり、エネルギー危機はさらなるインフレを招く。
1. ガスプロムの供給が停止された場合、モルドヴァは国際市場から購入する用意があるが、価格は上昇する。国内ガス料金は6月1日以降、引き上げられる可能性がある。モルドヴァはガスプロムと長期契約している国の中で最も高い料金を支払っている。4月は1160ドル/1000m3でスポットの1350-1500ドルに近づいている。国家予算で1.5億ユーロを計上してルーマニア領内に冬季用のガス備蓄に充てている。また、ロシアからのガス供給問題が生じた際、ウクライナ、モルドヴァにEUからリバース供給する計画をEUは策定済であり、モルドヴァは2月にワシントンで調印している。
2. 可能性がある案としては、備蓄能力が大きいルーマニアからガスを受けるものがある。また、ルーマニアは代替供給源から輸送を担う役割もある。モルドヴァはルーマニアに1853万m3のガスが備蓄しており、モルドヴァの消費量の5-7日分にあたる。
3.ガスプロムが供給停止した際にモルドヴァがロシア・ガスを代替できる可能性は限定的である。そもそもモスクワとキシナウ間の公式レベルでの定期的な対話がない状態では、ガス供給の停止はいつでも生じる。危機脱出に最も良いのはロシアとの交渉の継続である。Moody'sは、モルドヴァがロシアガスを拒否して代替供給源を見つけられることに疑問を呈している。
4. モルドヴァがエネルギー安保のために供給源多元化策を決定しており、ルーマニアにおけるガスパイプラインの完工も挙げられている。また、EUとの間で電力送電網の同期も行われ、EUから直接電力を輸入することが可能となった。しかし、モルドヴァがロシアガスを完全に代替できるかは不確定である。また、戦争により、パイプライン損傷の危険性に晒されている。トルコ、ルーマニア、アゼルバイジャンから輸入するとしても、ロシアの供給量に匹敵するレベルには達しない。
5. ルーマニア・パイプラインからのガス輸入は15億m3/年であり、モルドヴァと沿ドニエストルを足した需要は30億m3である。半分しか代替できない。
6. モルドヴァはガス輸送国ではないため、ウクライナのようなバーチャル・リバース輸入ができない。
7.  モスクワは沿ドニエストルへのガス供給制限を意図していないが、沿ドニエストル供給分はモルドヴァガスの契約によるものであり、個別契約ではない。ガスプロムは沿ドニエストルに直接供給できない。ロシアとの交渉内でこれが重要な要素となる。
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 このインフレ率急上昇はすごいな。クレムリンは、天然ガスとドドン社会党とちょっとしたマス動員で、簡単に切り崩せそうだ。

posted by 藤森信吉 at 12:35| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月27日

ねんがんのENTSO-E加盟

 こちらによると、ウクライナのウクルエネルゴ社がENTSO-Eオブザーバー資格を付与された。
 ワルシャワにおいて欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は、ウクライナ国営ウクルエネルゴ社にオブザーバー資格を付与した。
ウクライナ・エネルギー相によると「この合意でウクライナはヨーロッパのエネルギー市場との完全なる統合にさらに近付き、我々の将来的な発展が約柵された。ウクライナの加盟は互恵的である」と述べた。
 カドリ・シムソン・エネルギー担当欧州委員、ENTSO-E関係者、ウクルエネルゴ社代表、ポーランドの送電公社PSE関係者らが式典に参加した。オブザーバー資格によるウクルエネルゴ社はENTSO-Eの会議に参加、専門家グループの作業部会にも参加できる。
 ウクライナは3月16日にエネルギーEUともいえべき、ヨーロッパ送電システムに接続しており、ウクライナ・ベラルーシ、ロシア間の電力のオーバーフローは不可能となるった。2022年末までにウクライナは同システムに接続される予定であったが、ウクライナは単独体制を経て、開戦により、ロシア側と接続することが無理になった。3月末にはウクライナはEUへの電力輸出を再開している。
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悪名高きロスウクルエネルゴと名称は似てますが、ウクルエネルゴはウクライナの送電公社。
posted by 藤森信吉 at 18:04| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月01日

モルドヴァのガス問題

こちらに、チェバン・モルドヴァガス社長のインタビュー抜粋が掲載されているので、興味がある部分を紹介。

・4月のガスプロムの価格は
 4月から価格フォーミュラが変更され、1160-1170ドル/1000m3となる。消費は多少下がる。
・他の供給ルートの可能性は
 ウクライナを迂回する供給は技術的に可能。問題は他のルートの供給能力だ。トルコ・ストリームはフル稼働しているため、唯一可能性があるのは、ギリシャでLNGを購入することだ。2019年以降、トルコ・ストリーム経由でトランスバルカン・ルートをリバース利用することで輸入することも可能となっている。これは冬季のピーク需要をカバーすることができる。
・モルドヴァはルーブル支払いできるのか
 我々は契約に従って3つの通貨、すなわちドル、ユーロ、ルーブリで支払っている。主たる支払いはドルだ。2月は3通貨で支払った。5月からは、ユーロかルーブリの2つの選択肢があり、モルドヴァガスが選べる。新しい通知は受け取っていない。ルーブリのみの支払いへの移行は契約の変更を必要とする。我々にとってユーロ、ドル支払いの方が好都合た。第一にルーブリへのアクセスが難しい事、第二に為替レートの違いである。為替損失を消費者に転嫁することはできない。
・沿ドニエストルのガス債務は
 現段階では、沿ドニエストルのガス債務問題は協議されていない。2020年の政府間会合では、債務調整に関する法的文書を作成することで合意している。
・ガスプロムは沿ドニエストルに直接ガス供給できるのか
 供給可能だ。グレベニキ・ガス分岐基地(ГИС)経由となる。その場合、沿ドニエストル側のトレーダーが必要となる。トレーダーはモルドヴァとウクライナのガス輸送システムオペレーターと合意することになる。モルドヴァトランスガスとの合意なしには直接供給はできない。

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 EU側がロシア産ガスを禁輸すると、ウクライナ・ルートの利用者はモルドヴァだけになるような・・・というか、ウクライナ戦争で一番困惑しているのは沿ドニエストル。シェリフもMMZも商売あがったり。
posted by 藤森信吉 at 11:43| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月23日

4月からはじまるモルドヴァのガス危機

 こちらによると、4月のモルドヴァのガス購入価格は1000ドル/1000m3を超える可能性が出てきた。
 2021年10月29日のガスプロムとの契約は、5年間であり、第一および第四四半期の価格は、石油製品価格(Platts)70%、天然ガス市場価格30%に依存する。第二・三四半期はこの割合が逆になる。70%がTTF Front month、30%が石油製品価格に依存するが、どの石油製品かは現時点では不明である。  
 2021年12月のヨーロッパの天然ガス価格は2190ドルで、2022年1月に800ドルに落ち、そして3月7日には、TTFハブ価格で3892ドルを付けた。チェバン・モルトヴァガス社長は、4月のガス価格が1000ドルを超えることは確実だ、と述べた。3月のモルドヴァ・ガスの契約価格は547ドル/1000m3であった。
 一方、国内販売価格は1月は620ドルであるが、4月以降、政府は冬季の補助金を払わないことを決めている。4月は暖房シーズンが終わるため、消費者のガス使用量は減少することになる。
 ガスプロムとの契約では、モルドヴァの過去のガス債務7億ドルの監査が義務に入っているが、ウクライナ戦争によって監査会社の選定がいまだ行われていない。モルドヴァ側はガスプロムに監査期間の延期を求めているが、回答はない。「5月にどこからガスを輸入するのか、回答困難であるが、ガスなしではこの国はやっていけない。監査期間が延長されることを願うしかない」とチェバン氏は述べている。
 仮にガスプロムが延期に同意しない場合、国営企業Energocom が他の供給者からガスを購入することになる。ガス価格は開戦直後に急騰したが、今は落ち着いている。
 またモルドヴァ政府は、EBRDとの間、ガス購入・ルーマニア地下ガス貯蔵庫への備蓄費3億ドルの信用供与について交渉中である。これにより、冬季2か月分のガス購入が望まれている。
 専門家は、監査期間が延長される可能性が高いとみている。モルドヴァは対ロ制裁に参加しておらず、また、ロシアも対モルドヴァ制裁を課していない。また、ロシアのガスは、沿ドニエストルの歳入の40%、GDPの半分を担っているため、ロシア・ガスがなくなることは沿ドニエストルの破滅を意味する。モルドヴァは、ヨーロッパ送電網とのシンクロテストが完了しているため、沿ドニエストルの発電なしでもやっていける。現状、モルドヴァの交渉の立場は昨年度より遥かに良く、最小の政治的犠牲で、経済へのショックを和らげることが可能である。
posted by 藤森信吉 at 23:31| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月20日

ウクライナとモルドヴァ、欧州送電網に接続に成功

こちらによると、3月16日、ウクライナとモルドヴァの送電網がヨーロッパ大陸の送電網とシンクロ接続された。
このことは、目下の暗黒期におけるウクライナの電力システム、家庭の暖房、電灯の安定を保つことになり、EU-ウクライナ間の歴史的なマイルストーンとなる、と欧州委員会は記している。
EUは、需要が切迫しているガスやエネルギーの供給を確保してエネルギー部門におけるウクライナ支援を継続する、いずれグリーンディールや市場改革で、ウクライナと協力を続けられる日が来るであろう、と結んでいる。
posted by 藤森信吉 at 00:33| Comment(0) | エネルギー問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする