こちらにマルコ・シェフチェンコ駐モルドヴァ・ウクライナ大使のインタビュー記事が掲載されているので、興味深い点をピックアップ。
・ウクライナがモルドヴァに伝えた政権転覆の情報について
「諜報機関の盗聴によってもたらされた情報だ。個人的には計画書そのものは見ていない。しかしながら、表になった、ということは既に粉砕されたことを意味している。内容だが、第一に具体的な指令はなく、古典的ではないハイブリッドなものだ。ちょうど、ドンバスやクリミアで始めた戦争と同じだ。サンドゥ大統領が述べたように、街頭をデモ隊が埋め尽くし、個々のグループが国家機関を掌握する。これはクリミアの初期、そしてドネツィク、ルハンシクの初期に使われた手法だ。これにモルトヴァ独自の条件が加わる。外部からの部隊はいらない。ロシア部隊は既にモルドヴァ領内にいる。
・沿ドニエストル領内のロシア部隊について
「ウクライナの諜報機関は完全にロシア部隊の状態を把握している。臨戦の兆しはない。2014年まで、ウクライナは沿ドニエストルを沿ドニエストル和平の要素、もしくはテーマと見做してきた。2014年後、ウクライナは沿ドニエストルをウクライナ安保の脅威要素と見做している」
・ウクライナがロシアに勝利した後の沿ドニエストル問題の解決策について
「ウクライナは伝統的に、モルドヴァの枠内で、モルドヴァ政府との合意により、沿ドニエストルが任意の特別な地位を得られるとの立場をとっている。自治、連邦、連合、特別な権限を持つ特別地位、あるいはこれらの混合である。重要なことは第一に、モルドヴァの領土保全原則が和平の主たる様式だ。また、モルドヴァが自らの親欧州路線を維持することも我々にとっては重要だ。ウクライナは、キシナウが望むどのような形態の交渉にも関与する用意がある。
2023年02月27日
2023年02月14日
「ルーマニアとの統合」は分離主義とどう違うのか
こちらに、2月2日のモルドヴァ刑法改正(分離主義の刑罰化)に関する議論が紹介されているのでピックアップ。
・モルドヴァは沿ドニエストルという領土の分離紛争を抱えているが、一方で、ルーマニアとの統合という、独立を放棄する考えがモルドヴァ内で広まっている。独立から30年後、分離主義は犯罪化されたが、統合主義は支持を増やし政治的な選択肢の一つとなっている。
改正刑法が可決された一週間後、社会党・共産党ブロックの議員が、「隣国への編入、対外戦争への参加、存在しない国家語による議会での演説」を刑罰化する改正案を提出した。大統領与党が多数派を占める現議会でこの法案が可決される可能性はないが、分離主義と統合主義の比較についての議論を呼び起こしている。
・理論的に言えば、統合主義は他国に利して国家性を放棄する意欲であり、分離主義同様に、国家にとって危険である。どちらも現行の国境内に存在する国家を否定するものである。政治評論家のチェヌシャ氏は「政府の決定はロシアの脅威、沿ドニエストル側からの侵攻の封じ込め・抑止から来ている。一方でEU、NATO加盟国のルーマニアは脅威とはみなされず、パートナーとされている」と説明する。
・モルドヴァは、刑罰化を用いらず、ガガウス問題を解決している。1994年の「ガガウス自治共和国の法的立場法」では、ガガウスは分離する権限を持っているが、「モルドヴァの独立国家の立場が変更された時」という条件が付いている。
・モルドヴァの独立当初から、ルーマニアとの統合はモルドヴァの法律のあちこちに反映されてきた。モルドヴァ憲法は統合主義に対し曖昧である。一方で、憲法はモルドヴァの独立問題に対する国民投票についても規定している。2012年には、ルーマニアとの統合を掲げる国民自由党が、現状変更が平和的かつ民主主義的手続きに従うこと、民主主義の基本原則に沿うこと、を条件に政党登録されている。「ルーマニアとの統合」支持率は2015年の10-15%から35-40%に上昇している。統合主義の支持は、モルドヴァ住民の多数がルーマニア国籍パスポートを所持していることにも表れている。統合主義を刑罰化した場合、ルーマニア・パスポートを所持する住民の講義を招き、またルーマニアとの関係を損なう可能性がある。ウクライナの戦線が崩壊し、ロシア軍がモルドヴァ国境まで迫ってきた場合、統合はすぐに実現する可能性がある。
・欧州統合と統合主義は、同一方向であると同時に、相互に競争する考えでもある。欧州統合は、統合主義より反対が少なく、長期的に支持が多数を占めてきた。EU加盟は、統合主義と相容れるものとなっている。しかしEU加盟が許されれば、統合主義の魅力はすぐに失せてしまうだろう。EU内で独立国を維持できるからだ。今日、モルドヴァ世論の30-35%が統合主義に賛成しているが、これはモルドヴァ国家の将来に対する幻滅の現れである。EU加盟は統合主義を潰すことになる。
・モルドヴァは沿ドニエストルという領土の分離紛争を抱えているが、一方で、ルーマニアとの統合という、独立を放棄する考えがモルドヴァ内で広まっている。独立から30年後、分離主義は犯罪化されたが、統合主義は支持を増やし政治的な選択肢の一つとなっている。
改正刑法が可決された一週間後、社会党・共産党ブロックの議員が、「隣国への編入、対外戦争への参加、存在しない国家語による議会での演説」を刑罰化する改正案を提出した。大統領与党が多数派を占める現議会でこの法案が可決される可能性はないが、分離主義と統合主義の比較についての議論を呼び起こしている。
・理論的に言えば、統合主義は他国に利して国家性を放棄する意欲であり、分離主義同様に、国家にとって危険である。どちらも現行の国境内に存在する国家を否定するものである。政治評論家のチェヌシャ氏は「政府の決定はロシアの脅威、沿ドニエストル側からの侵攻の封じ込め・抑止から来ている。一方でEU、NATO加盟国のルーマニアは脅威とはみなされず、パートナーとされている」と説明する。
・モルドヴァは、刑罰化を用いらず、ガガウス問題を解決している。1994年の「ガガウス自治共和国の法的立場法」では、ガガウスは分離する権限を持っているが、「モルドヴァの独立国家の立場が変更された時」という条件が付いている。
・モルドヴァの独立当初から、ルーマニアとの統合はモルドヴァの法律のあちこちに反映されてきた。モルドヴァ憲法は統合主義に対し曖昧である。一方で、憲法はモルドヴァの独立問題に対する国民投票についても規定している。2012年には、ルーマニアとの統合を掲げる国民自由党が、現状変更が平和的かつ民主主義的手続きに従うこと、民主主義の基本原則に沿うこと、を条件に政党登録されている。「ルーマニアとの統合」支持率は2015年の10-15%から35-40%に上昇している。統合主義の支持は、モルドヴァ住民の多数がルーマニア国籍パスポートを所持していることにも表れている。統合主義を刑罰化した場合、ルーマニア・パスポートを所持する住民の講義を招き、またルーマニアとの関係を損なう可能性がある。ウクライナの戦線が崩壊し、ロシア軍がモルドヴァ国境まで迫ってきた場合、統合はすぐに実現する可能性がある。
・欧州統合と統合主義は、同一方向であると同時に、相互に競争する考えでもある。欧州統合は、統合主義より反対が少なく、長期的に支持が多数を占めてきた。EU加盟は、統合主義と相容れるものとなっている。しかしEU加盟が許されれば、統合主義の魅力はすぐに失せてしまうだろう。EU内で独立国を維持できるからだ。今日、モルドヴァ世論の30-35%が統合主義に賛成しているが、これはモルドヴァ国家の将来に対する幻滅の現れである。EU加盟は統合主義を潰すことになる。
2023年02月08日
モルドヴァで「分離主義犯罪法」可決
2月2日、モルドヴァ議会は、刑法典を改正し、「分離主義」の項目を追加した。これに対する評論がいくつか出ているので紹介。
・モルドヴァ法や国際条約の条項を犯しモルドヴァ領の分離を目的とする「分離主義活動」は懲役2-6年、分離主義の情報資料を頒布した場合は2-5年が科せられる。また、資金援助も処罰対象となる。
・沿ドニエストルは、分離主義条項を批判している。イグナチェフ・沿ドニエストル外相は「全交渉過程を損なうもの」と批判している。また、沿ドニエストル議員は、両岸関係を92年初に戻すものだ、と指摘している。沿ドニエストルでは、「分離主義条項は住民全てに係るものである」と喧伝されている。
・モルドヴァの閣僚や議員たちは「分離主義条項」は、沿ドニエストルの住民・役人の大多数に適用されるものではない、としている。教育、保健関連の省庁職員にも係らないが、高官は対象となる可能性がある。モルドヴァ安全保障を損なう気持つデータを集めている機関の職員は対象となる。また、沿ドニエストルの違憲体制を支持しているロシア連邦の公人も対象となる。
・モルドヴァ再統合庁は、分離主義条項は交渉の妨げとならない、なぜなら「沿ドニエストルとの交渉はモルドヴァの主権・領土保全に基いて行われているからだ」としている。一方でモルドヴァの政治家からは、交渉過程が困難になる、とみている。政治評論家のツェラヌ氏は「モルドヴァは領土保全の状態であったことは一日たりともない。分離主義を武力で解決しようとしたが、ロシア軍の関与により失敗した。1992年に休戦条約が結ばれ、半ば沿ドニエストル体制を認めることで平和的な解決を目指す基礎を作った。このモデルをウクライナは拒否し、ロシアの侵攻を招いた。『モルドヴァ型降伏』か、『ウクライナ型抵抗』のどちらが紛争解決を成功に導くのか、いずれ明らかになろう」「分離主義条項の肯定的な面は、モルドヴァ側はこれまでの両岸関係のような寛容はもうないことを沿ドニエストル指導部に示すことであろう」と述べている。
・モルドヴァ法や国際条約の条項を犯しモルドヴァ領の分離を目的とする「分離主義活動」は懲役2-6年、分離主義の情報資料を頒布した場合は2-5年が科せられる。また、資金援助も処罰対象となる。
・沿ドニエストルは、分離主義条項を批判している。イグナチェフ・沿ドニエストル外相は「全交渉過程を損なうもの」と批判している。また、沿ドニエストル議員は、両岸関係を92年初に戻すものだ、と指摘している。沿ドニエストルでは、「分離主義条項は住民全てに係るものである」と喧伝されている。
・モルドヴァの閣僚や議員たちは「分離主義条項」は、沿ドニエストルの住民・役人の大多数に適用されるものではない、としている。教育、保健関連の省庁職員にも係らないが、高官は対象となる可能性がある。モルドヴァ安全保障を損なう気持つデータを集めている機関の職員は対象となる。また、沿ドニエストルの違憲体制を支持しているロシア連邦の公人も対象となる。
・モルドヴァ再統合庁は、分離主義条項は交渉の妨げとならない、なぜなら「沿ドニエストルとの交渉はモルドヴァの主権・領土保全に基いて行われているからだ」としている。一方でモルドヴァの政治家からは、交渉過程が困難になる、とみている。政治評論家のツェラヌ氏は「モルドヴァは領土保全の状態であったことは一日たりともない。分離主義を武力で解決しようとしたが、ロシア軍の関与により失敗した。1992年に休戦条約が結ばれ、半ば沿ドニエストル体制を認めることで平和的な解決を目指す基礎を作った。このモデルをウクライナは拒否し、ロシアの侵攻を招いた。『モルドヴァ型降伏』か、『ウクライナ型抵抗』のどちらが紛争解決を成功に導くのか、いずれ明らかになろう」「分離主義条項の肯定的な面は、モルドヴァ側はこれまでの両岸関係のような寛容はもうないことを沿ドニエストル指導部に示すことであろう」と述べている。