2023年01月28日

ウクライナ中銀の2023年経済予測

 ウクライナ国立銀行が2022年経済の総括と2023年予測を行っているので紹介。
・インフレ
 2022年のCPIは26.6%増であった。インフレ率の沈静化は解放された地域からの食品供給とロシアのエネルギー部門攻撃による需要減退によってもたらされている。公共料金の固定、フリブナ為替レートの固定、ロジスティックの確立もインフレ率を押しとどめている。一方でビジネスおよびインフラの破壊、サプライチェーンの崩壊、ビジネスコストの上昇、インフレ期待による価格上昇圧力も強い。2023年は18.7%を予測している。2024年は10.4%、2025年は6.7%予想を立てている。主たるインフレ要因は、公共料金の市場レベルへの引き上げである。
・GDP
 2022年のGDP成長率はマイナス30.3%であった。Q4はロシアのエネルギー施設攻撃により35%低下した。商業およびサービス部門は停電に迅速に適応したが、農業、工業には影響が出ている。2023年はマイナス0.3%を予測している。今年の収穫はさらに低下すると予測するが、エネルギー部門のさらになる損壊は避けられると考えている。安全保障リスクの低下と貿易港の完全稼働、収穫の増加、生産能力の回復、ロジの改善、内需回復により、2024-25はそれぞれ4.1%、6.4%の成長を見込んでいる。
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2024-25年には戦争は収束、もしくは局地化できる、という見込みのようです。
posted by 藤森信吉 at 17:07| Comment(0) | ウクライナ論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月27日

沿ドニエストル、2月もモルドヴァに電力を輸出

 こちらによると、2月の沿ドニエストルのモルドヴァ国家地区発電所(MGRES)とモルドヴァ国営Energocom社との契約価格は73ドル/MWhであった。23万MWhを供給する。一方、Energocom社はルーマニアの原発企業Nuclearelectrica社との契約も継続しており、2月に1万6240MWh、450ルーマニア・レウ(約100ドル)/MWhで購入する。ルーマニア側は夜間10MWh、昼間30WMhを供給することになる。
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 2022年12月のモルドヴァ・沿ドニエストル契約は3か月(12、1、2)であった模様。
電力危機(絶対量だけでなく価格も)に陥ったモルドヴァを、仇敵である(はずの)沿ドニエストル電力が救う、という美しい構造。モルドヴァはNATO加盟を示唆する等、反ロ姿勢でイキっているが、ガスプロムが無料で提供する天然ガスで発電されている沿ドニエストル電力に頼っている。
 2022年の流れを箇条書きすると
・ロシアガスプロムがモルドヴァ(+沿ドニエストル)へのガス供給量を減らす
・沿ドニエストルの火力発電量が落ちる&対モルドヴァ輸出量も落ちる
・モルドヴァは不足分をウクライナから輸入
・ウクライナ、ロシアの空爆で電力輸出停止
・ロシアガスプロム、モルドヴァ(+沿ドニエストル)向けガス供給量をさらに減らす
・沿ドニエストル、電力輸出停止
・モルドヴァは不足分をルーマニア(単価は沿ドニエストル産の数倍)から輸入、それでも足りない
・モルドヴァ、国内電気料金の高騰&ブラックアウトで死にそう
・ガスプロムと手打ち、12月から沿ドニエストルの電力輸出再開

 改めて見返すと、ガスプロムはモルドヴァに何をしようとしていたのか、意味不明
posted by 藤森信吉 at 14:05| Comment(0) | モルドヴァ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月25日

汚職・更迭祭り

こちらによると、ティモシェンコ大統領オフィス副長官の更迭と同時に諸州知事が更迭された。利権関係が示唆されている。

 キリル・ティモシェンコが大統領オフィス副長官から更迭された。それに続いて、キーウ州知事、ドニプロペトロフシク州知事、ヘルソン州知事、スゥミ州知事、ザポリジア州知事も買うてされた。州知事(州行政府長)は大統領オフィスの直轄であり、まさにティモシェンコが地域の調整を担当していた。かのキム・ミコライウ州知事もティモシェンコと毎日、協議している。

 このうち、スゥミ州を除く三州の知事の更迭はティモシェンコ関連である。ティモシェンコはGM社が人道目的として提供したシボレータホを私的利用していると10月にBihus.infoが暴露していた。また、これ以外にも、10万ドル相当のポルシェ・タイカン2021年モデルを乗り回している、とRadaテレビ局が報道していた。

 また12月末には、国家対汚職局がドニフロ市の大規模事業に関連した犯罪を捜査した、と スヘームイが報道した。それによると、ドニプロペトロフシク州はロシアの侵攻の損害を受け、23億フリブナという巨額の修繕費を費やしてきたが、これは他の州より大きな額である。そして、大部分を請け負った企業の共同所有者はドニブロペトロフシク州知事と緊密な関係にあった。ティモシェンコは開戦前、大規模事業の提唱者であった。また、ザポリジア州では州行政府による人道援助の横領に対する捜査が行われていた。ティモシェンコは各州への人道援助問題を担当していた。

 大統領オフィス副長官にはアレクセイ・クレバが任命された。彼はエルマク大統領オフィス長官と関係が深く、更迭劇は、エルマクの権限強化をもたらしている。

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タイミングとしてはいつでも首切りできたようだ。欧米の戦車供与と合わせた感があるが、もしや欧米が、汚職対策を条件としたのだろうか? しかし、ウクライナでは汚職はいかなる状況でもなくならない。復興局面では、さらに利権が渦巻くことになりやしないか。関係ないが、当時は美談とされたドニプロ市の道路の即日復旧、今読み直すと味わい深い。

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posted by 藤森信吉 at 21:10| Comment(0) | ウクライナ論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月24日

天然ガス消費量が激減中のモルドヴァ

 こちらによると、モルドヴァの冬季の天然ガス消費量が前年比で半減した。
 10-12月の三か月間の天然ガス消費量は2021年の3億8600万m3から1億9940万m3へ半減した。内、住民がマイナス44%、熱供給・発電所がマイナス55%、ビジネス業界がマイナス52%だった。Moldvagaz社は、
1.合理的・効率的なガス利用
2.暖冬
3.数倍に高騰したガス料金
を理由として挙げている。また、専門家も似たような分析をしており、
1.暖冬により10%以上のガス消費減
2.部屋の温度設定を下げた
3.より安い他の燃料(石炭、薪)に移行。 
を挙げている。 
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posted by 藤森信吉 at 15:56| Comment(0) | モルドヴァ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月22日

サンドゥ・モルドヴァ大統領「中立破棄を検討中」

サンドゥ・モルドヴァ大統領がpoliticoとのインタビューで中立破棄に言及したので簡単にコメント。
 サンドゥ「我々の能力だけで防衛するか、より大きな同盟の一部となるか、議論中である。中立政策を変えるべきであるとの結論に達したとき、民主主義的な過程を通じて行われる」
「ロシアのプロパガンダは住民の一部に対して『中立は国防部門に投資しなくて良い、何もしなくてよい、国防能力はなくて良い』と信じさせている。これは間違っている」
 サンドゥ大統領は全体として、モルドヴァは「脆弱」なままで、プロパガンダや偽情報を通じたロシアのハイブリッド戦争の目標となっている。しかし、現時点では、軍事的脅威には直面していない。ウクライナが抵抗しているおかげだ、と述べた。

・モルドヴァ憲法11条「モルドヴァは中立国である」「領内の外国軍隊の配備を認めない」。これを改憲するには議会の2/3の賛成が必要だが、現行では、与党PASの議席は2/3に及ばず。iDATA社の世論調査(2022/12)の試算によれば、今日選挙が行われた場合、サンドゥ与党PASは39議席/101。ロシアが贔屓とする社会党・共産党のブロックが38、ショール党が18 で十分に改憲を阻止できる。解散がなければ次の議会選挙は2025年。
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・世論の多数は一貫して中立支持。NATO加盟支持率はロシアのウクライナ侵攻後も沸騰せず少数派。サンドゥがいう「ロシアのプロパガンダの影響」なのかは不明。開戦後、サンドゥ政権はロシアメディアをブロックし、野党に対しても攻撃を加えているが、世論を見る限り、成果は出ていない。
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・EU加盟支持率も開戦後、あまり変化していないが過半数は維持。
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・ウクライナ戦争に対して日本も当事者意識を持つべきだ、という指摘が一部でされるが、多くの難民を抱え経済的な影響も受けて当事者意識ばりばり(であるはず)のモルドヴァ世論がこのような傾向を示すのは興味深いところだ。
posted by 藤森信吉 at 14:30| Comment(0) | モルドヴァ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月21日

沿ドニエストルMMZ、モルドヴァ側に環境適合証の5年延長を要求

 こちらによると、沿ドニエストルの鉄鋼工場MMZは、モルドヴァ政府に対して、公式に5年間の環境適合証の効力を求めた。
 MMZは汚染物資の放出と廃棄物管理に関する適合証明の5年間効力を求めた。これに対し、モルドヴァの環境相は、数か月前にも延長の申請を受けているが、技術関連の文章が膨大で審査過程が非常に複雑だ、と述べた。MMZは緊急時の決定として1か月単位の一時的な許可を得ているが、前環境相が述べたように、MMZの適合証明は、沿ドニエストル側がMGRES(火力発電所)の電力輸出を促すための前提条件となっている。
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沿ドニエストルの工業と輸出において、鉄鋼と電力がそれぞれ7割くらいを占めている。環境証明はEUが世界中の鉄鋼所に課しているもので、これがないと、EUから屑鉄を輸入できない。一方で、記されているように、モルドヴァが沿ドニエストル産電力(圧倒的に安い)を購入するための人質ともなっているので、まあ5年でなく小出し延長でしょう。

posted by 藤森信吉 at 18:02| Comment(0) | 沿ドニエストル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月19日

生き残りモードに入ったウクライナ鉄鋼業界

 こちら(英文)にウクライナの鉄鉱工業界の状況が記されているので紹介。
 2022年2月のロシア侵攻以降、ウクライナの鉱業・鉄鋼業界は「生き残りモード」で稼働している。ウクライナ冶金連盟(Укрметалургпром)総裁のカレンコフ氏によると、鉱業の稼働率は20%、鉄鋼は15%である。先日、連盟は2022年度の生産統計を公表したが、それによると、粗鋼生産量は前年比70.7%減、圧延鋼は同72%減であった。かつてウクライナの生産量の4割を産出していたマリウポリの2つの鉄鋼所の損壊が業界最大の喪失であった。マリウポリの破壊により、板用鋼の輸出の全て、熱間圧延鋼板の輸出の3割を失った。ウクライナ側が統治している領内の企業も人員不足、電力不足、そして黒海港封鎖により否定的な影響を受けている。黒海の封鎖により、トラックや鉄道、あるいはルーマニア、ブルガリア、ポーランドの港からの輸出を余儀なくされている。ロジスティック費用は4-5倍に高騰した。それゆえ、対中国輸出はもはや採算が成り立たなくなっている。かつて、鉄鉱石の50%、鉄鋼の8割は輸出にまわされていた。その比率は今も変わらないが、輸出先が変わった。EU向けが1/3から6割に上昇した。黒海の封鎖がなければ、輸出量を増やし、稼働率を30-45%に引き上げられる。
 将来的には、EU標準に遵守し続けるのが重要である。目下、西側世界では、緊縮政策で建設業は低調となっており、これがウクライナ鉄鋼業界の悩みの一つとなっている。しかしEUでは需要が今後、1500-2000万トン/年に上昇すると見られている。この需要をウクライナの鉄鋼が満たすことが重要である。ウクライナのインフラの復興が輸入鋼で行われている兆候が見られる。フランスのMatiere社が、鉄橋建設に鉄鋼を供給するが、これはウクライナで生産可能なものだ。黒海港の開放が早ければ早いほど、ウクライナはアジアや中東、北アフリカに輸出できるが、現状ではこの可能性はなく、ヨーロッパ経済の進展に直接依存している。
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 鉄道の復興はフランス政府の融資のようです。
https://www.railtech.com/infrastructure/2022/12/14/france-to-supply-rail-tracks-to-ukraine/

posted by 藤森信吉 at 14:17| Comment(0) | ウクライナ論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月18日

2022年の沿ドニエストルのインフレ率は13.2%

 こちらによると(vpn通す必要あり)沿ドニエストルの2022年のインフレ率は13.2%だった。
 沿ドニエストル国家統計によると、3-6月がインフレのピークであり、後に沈静化した。食品の価格上昇が主たる要因で、21%上昇した。また、非耐久消費財は10%上昇、サービスは4.5%増だった。
 分析によると、昨年度、食品価格の変動が大きく、鶏卵は6月に減少、7-8月に上昇、9月に減少、10-11月に上昇、と変動を繰り返した。また、ガソリンも3-6月に上昇ピークが来た。LPG、洗剤、マッチも上昇した。他方で昨年末に世界経済はインフレの鎮火傾向にあり、これが沿ドニエストルにも影響を及ぼしている。12月のインフレ率は0.1%だった。
 モルドヴァでは年インフレ率が30%超となっており、エネルギー料金の上昇が主因である。2021年の沿ドニエストルのインフレ率は7.4%、モルドヴァのインフレ率は14%だった。
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 沿ドニエストルは食料をはじめとして輸入依存なので、世界経済の影響はかなり受ける。エネルギーにしても、天然ガスはロシアからタダでもらっているが、原油製品は市場価格で購入している。
posted by 藤森信吉 at 21:49| Comment(0) | 沿ドニエストル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする