2022年09月27日

発電所を奪われたウクライナの冬はどうなるのか

 こちらにウクライナの発電状況についての議論があるので簡単に紹介。
 2月24日以来、ロシアはウクライナの発電所を10占有している。最大のモノはザポリジア原発である。侵攻によって、ロシアは少なくともウクライナの発電所の33%を抑えている。また、戦争で太陽光発電所の30%、風力発電所の90%を失っている。さらにロシアは原発・火力発電量の50%以上を握っている。
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 また、ロシアは12の熱供給基地を占有している。
 開戦前、ウクライナの発電容量は消費量を30%上回っていた。消費は季節や時間帯によって異なるが、深夜は消費量が少なく、朝と夕方が多くなる。ザポリジア原発は昨冬、ウクライナの総発電量の25%を叩き出していた。このザポリジア原発の送電が止まることが最悪のシナリオであるが、多くの論者は、ブラックアウトはなく、不足分はヨーロッパからの輸入、業界への制限、そして輸出停止によって補償されるとみている。ウクライナ政府は天然ガス備蓄を130億m3、石炭を200万トンつみあげている。一方で、ウクライナ政府はロシアガスのヨーロッパへの輸送は楽観視している。
 また政府、地方、官民のエネルギー企業代表を交えた特別チームを組織している。ロシアのロケット射程はウクライナ全土をカバーしており、冬は特別厳しくなることが予想される。「占領地域、あるいは最近、解放された地域の住民は離れた方が良い。1、2か月では政府は質を伴った冬季への準備をすることはできない」とボイコ・首相顧問は述べている。
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 数字がいくつか出てますが、開戦前に奪われていた発電所(クリミア、人民共和国領) も時々カウントされていたりして、ちょっと面倒です。

 
posted by 藤森信吉 at 10:22| Comment(0) | ウクライナ論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月14日

ウクライナ領のガス輸送が止まるとどうなるのか

 こちらに、ロシアがウクライナ領ガスパイプラインの輸送を停止した場合の問題が論じらているので簡単に紹介。
 2021年上8か月、ガスプロムはウクライナ領経由で258億m3(2022年同期は153億m3)輸送した。すなわち、2022年初から100億m3減少していることになる。直近では4-4.1億m3/月と契約量10.9億m3を遥かに下回っており、違約金を支払う必要がある。輸送量の低下は、占領下ルハンシク州内のスホノフカ・ガス基地の稼働停止が主因である。契約不履行により、ナフトガス社とガス輸送システム・オペレーター社は、仲裁への訴えを準備している。
 ガス輸送がなくなった場合、パイプライン内のガス圧力を維持することが最大の問題となる。また、ロシアからいつミサイルが飛来するとも限らない。しかし地下ガス貯蔵庫がある限り、自国内のガス生産とヨーロッパからの輸入で、国内消費者へのガス供給は可能だ。政府が求める冬季までの190億m3備蓄は無理だ。これはナフトガス社に資金がないからだ。ナフトガス社はパイプライン輸送料を稼げず、他方でEU市場におけるガス価格の高騰も加わっている。ノルドストリーム停止により、EU諸国のガス価格は3300ドル/1000m3まで高騰し、目下は2000ドル強で推移している。このような価格では、輸入は議論とならない。地下ガス備蓄庫には130億m3のガスがあり、目下、国内ガス生産のみを注入している。現在の消費・生産レベルでいけば、暖房シーズン開始時には145-150億m3まで積み上げられる。この量は、国外避難民、消費の低下、産業活動の停止、平年通りの寒さを勘案すれば、冬を乗り切ることができる。
 仮に厳冬であった場合、どうなるのか。企業や学校が閉鎖され、消費量が調整される。異例なほどの厳冬の場合、EUが人道的援助としてウクライナにガスを供給する、と政府は見ているが、自力で乗り切れることを願っている。
posted by 藤森信吉 at 18:22| Comment(0) | ウクライナ論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする